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数物年会講演:U粒子の理論に就てLecture: On the Theory of the U-Particle
OU1938-B2 (8ページ) 1938年4月4日
4月4日、東京帝国大学理学部で開催された日本数学物理学会年会「原子核討論会」で湯川は坂田昌一、武谷三男と共同研究で進めていたU粒子の理論について総合的な報告をすることになった。そのために準備していたのがこの原稿である。理論の背景と現状を総括している。
1932年の中性子の発見以来、ハイゼンベルグが原子核は陽子と中性子が結びついて成り立つという描像、陽子と中性子はお互いに変化する相互作用があること、ベータ崩壊もこれに関与するかもしれないこと、これらを踏まえ、自分(湯川)は1934年に新しい粒子(U粒子)が存在することを提唱したことを説明する。そして、U粒子はボゾンであり、電子の質量の200倍の質量を持つ荷電粒子であることを説明する。そして近年(1936年から1937年)宇宙線の観測でそれらしきものが見つかり、U粒子の理論を整備することが急務であると力説する。
さらに陽子と中性子の異常磁気能率をU粒子を使って説明するにはU粒子自身が磁気能率を持つベクトル場である可能性を調べる必要があり、また、陽子陽子間、中性子中性子間の力を出すには中性のV粒子も必要であるという。U粒子、V粒子、重粒子(陽子Pと中性子N)の従う方程式、相互作用を書き下し解析する。当時、湯川達は、この質量を持ったベクトル場を理解するために1936年のフランス語のプロッカの論文を研究室で勉強していた。6ページ目以降は、さらに詳しい計算を書く。その計算では、二つの重粒子がスピン0の状態よりもN-Pがスピン1の時の方がエネルギー的に安定になるという結果に導かれる。(文: 細谷 裕)
史料提供:京都大学 基礎物理学研究所 湯川記念館史料室 (s02-06-004)
OU1938-B2-s02-06-004