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論文誌Phys Rev編集局からの手紙Letter from the Editor of Physical Review

OU1937-C2 (1ページ) 日付: 1937年12月2日

湯川と坂田昌一、武谷三男は共著の論文「On the Theory of the New Particle in Cosmic Ray」(史料OU1937-C3)をPhysical Reviewに投稿した。論文は1937年10月22日にPhysical Review編集局に受理され、査読レフェリーに回された。そのレフェリーの評価に基づき、Physical Review編集局は論文はこのままでは掲載はできないとし、著者に論文原稿を送り返した。

Physical Review編集局が引用しているレフェリーの評価はいささか不当なものである。レフェリーは、1) 同種粒子の相互作用が小さくなりすぎる、2) スピン依存性がおかしい、3) 陽子と中性子の異常磁気能率がうまく説明できない、の理由を挙げ、論文を掲載不可と断じている。湯川達は3年ほど前に湯川が導入した新粒子(現在の荷電パイ中間子に対応するもの)による諸現象の説明を展開している。1)については、湯川達は荷電パイ中間子だけでは同種粒子の相互作用が小さくなりすぎるので、中性の粒子(中性パイ中間子)が必要かもしれないと指摘しているし、3)についても中間子の寄与で陽子と中性子の異常磁気能率を説明しようとしている。もちろん、3)の問題の解決は30年後のクォークモデルまで待たねばならないが。

1937年になっても、湯川の中間子の理論は他の物理学者にはなかなか受け入れられなかった。レフェリーは湯川理論に拒絶反応を示していたように思われる。この論文は、結局のところ出版されなかった。(文: 細谷 裕)

史料提供:京都大学 基礎物理学研究所 湯川記念館史料室 (E16-010)
OU1937-C2-E16-010
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