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最近の実験結果より見たる素粒子の性質Properties of Elementary Particles Inferred from Recent Experiments
OU1937-B8 (8ページ) 日付: 1937年7月2日
この史料はどこかの雑誌に最近の研究の解説として準備されたものであろう。湯川は保存するに際し、トップに原稿用紙を使って「最近の実験結果より見たる素粒子の性質 湯川秀樹 七月二日起稿」と書いてクリップで束ねていた。下書きの原稿(2ページ目から)は大阪帝国大学理学部の試験答案用紙に書かれている。2ページ目の参考文献の一覧は本来、この文章の最後に来るべきものである。
表紙、および3ページ目の原稿の出だしを見るとわかるように、湯川はこの文章のタイトルを何度も練り直している。「最近の実験結果より見たる」は不動だが、そのあと、基本粒子なのか重粒子なのか素粒子なのか、また相互作用なのか基本的性質なのか性質なのか、いろいろな組み合わせを考えている。
湯川は原子核に関する現象として陽子、中性子などの重粒子に関するものと、電子、ニュートリノなどの軽粒子に関するものに大別する。中性子の発見から原子核構造、重粒子間にのみ働く強い力(核力)と話を展開する。遅い中性子の陽子による散乱、原子核の質量欠損から相互作用を探ろうとする。解説の後半は重粒子の固有な性質として磁気能率に着目する。実験データを引用しつつ、なぜ観測されている陽子の磁気能率がディラックの理論から予想されるものと食い違っているのか、陽子、重陽子の磁気能率を強い力(核力)と結びつけて説明しようとしているのが面白い。(文: 細谷 裕)
史料提供:京都大学 基礎物理学研究所 湯川記念館史料室 (E27-010)
OU1937-B8-E27-010