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Phys Rev レフェリーのコメントComment of Referee (Phys. Rev.)

OU1936-C5 (1ページ) 日付:なし

湯川がアメリカの物理学会誌 Physical Review に投稿した論文に対するレフェリーのコメントである。これをもとに湯川の論文は掲載不可と結論された。

湯川は電子、陽電子それぞれのディラック場を用意し、二つの場にある関係を課すことで「無限電荷」が生じない理論を作ろうとした。つまり、電子場、陽電子場それぞれの負エネルギー状態の「ディラックの海」の無限電荷はキャンセルして「正常な真空状態」が実現できる。その結果は湯川の密度行列の新しい表式 [ (5) 式] に表現される。レフェリーはディラックの元の理論から帰結される密度行列の表式 [ (5)’ 式] と基本的に違わないとし、目立った新しい結果はないと結論する。現在の量子場理論の観点からすれば、実はこの違いは重要なのだが、レフェリーが理解することはなかった。湯川は Physical Review編集局 から返答を得た後、このレフェリーのコメントへの反論(史料OU1936-C7)を送り、レフェリーの理解の誤りを丁寧に説明している。湯川の議論も量子化の手続きが完全でなく、また荷電共役の概念が明確でないのでこの段階では説得力に欠けたのかもしれない。史料OU1936-C7の説明も参照されたい。(文: 細谷 裕)

史料提供:京都大学 基礎物理学研究所 湯川記念館史料室 (E25-022)
OU1936-C5-E25-022
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