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論文草稿:陽電子理論の密度行列Draft: Density Matrix in the Theory of the Positron (Letter to Phys. Rev. )

OU1936-C1 (4ページ) 日付: 1936年4月21日

アメリカの物理学会誌Physical ReviewのLetterとして投稿した論文の手書きの草稿。最終原稿は史料OU1936-C6である。ディラック(Dirac)はディラック方程式を導いた後、その帰結として現れた負エネルギー解を解釈するにあたり、陽電子の存在を予言した。その時、ディラックは、真空とは負エネルギーの電子の状態が全て占有されている状態であると主張する。(一般に「ディラックの海」と呼ばれる。)すると、真空には電子が無限個詰まっていることになって、多くの物理学者は、これはディラック理論の困難であり、どこか間違っていると考えた。

湯川はこの困難を、まず電子、陽電子それぞれのディラック場を用意し、二つの場にある関係を課すことで「無限電荷」が生じない理論を作ろうとした。つまり、電子場、陽電子場それぞれの負エネルギー状態の「ディラックの海」の無限電荷はキャンセルして「正常な真空状態」が実現できるという仕掛けである。現在では、湯川が導入した二つの場は荷電共役という操作で結びつき、一つの場で十分なことがわかっている。湯川は一歩手前まで来ていたのである。

草稿の最後に記す英語の所属を、最初、大阪帝国大学の「Department of Physics」としていたのを「Institute of Physics」に訂正している。物理学科の英語表記をなぜ変えようとしたのか、定かでない。翌年からは従来通り「Department of Physics」としている。(文:細谷 裕)

史料提供:京都大学 基礎物理学研究所 湯川記念館史料室 (s02-09-003)
OU1936-C1-s02-09-003
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