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考察:量子力学から多体系の相対論的量子力学へFrom Quantum Mechanics to Relativistic Quantum Mechanics
OU1936-A1 (49ページ) 日付:なし
1936年フォルダーに納められているが、日付はない。量子力学の基礎から多体系へ、そして相対論的な量子力学の構成にまで話が及ぶ。講義ノート風に書き綴られているが、実際に誰かを対象に講義したのか、あるいは、自分の考察を深めるためにまとめたのかはわからない。このノートは2枚目以降、大阪帝国大学物理学科のノート用紙の表裏を使って書かれている。
量子力学では物理量が演算子(operator)で表され、非可換量になることから説明が始まる。多体系の量子力学に話が進むが、途中(8ページ目あたり)原子核の構造に関する基礎問題の整理メモも挿入される。再び量子力学の基本原理に立ち返り、基本(正準)交換関係の相対論的関係への一般化を論じる。当時の全ての物理屋を悩ませていた問題である。アインシュタインの相対性理論によれば、空間と時間はローレンツ変換で混ざる。にもかかわらず、量子力学では時間が特別な役割を果たす。時間を含めて基本交換関係を相対論的に普遍な関係にできないか。20ページ目あたりから10ページにわたって考察を深める。その後、ディラック(方程式)理論に倣って4行4列の行列表示の演算子関係の議論に進む。37ページ目あたりでは、再び量子力学の正準方程式の相対論的一般化に取り組むが未完。45ページからは場を演算子として扱うアイディアを展開する。ボゾンかフェルミオンによって同時刻での交換関係か反交換関係を設定し、ハミルトニアンとの交換関係で時間発展を記述するというものである。最後の4ページには詳細な計算が書き殴られている。場の量子論の定式化までもう少しの所まで来ていたのである。OU1935-B9の考察とともに、現在の相対論的な場の量子論を試行錯誤で探っていた。(文: 細谷 裕)