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考察:量子統計力学における非可逆性Irreversible Property of Quantum Mechanical Ensemble
OU1935-A3 (9ページ) 日付: 1935年6月13日
量子力学のもとに、巨視的な(マクロな)系(物理的自由度の数が膨大な系)における時間発展が非可逆的である性質、一般に「エントロピー増大の法則」と表現される性質を理解しようとする。量子力学は1925年から1926年にかけて確立され、その直後からフォン・ノイマン(von Neumann)は量子力学の数学的基礎を精密化しようとした。ノイマンは1932年には「量子力学の数学的基礎」という書物を記した。その中で、現在の量子統計力学の基礎となる、密度行列を使ったエントロピーの表式も与えている。湯川はこのノイマンのエントロピー表式を用い、非可逆的性がいかに帰結されるかを理解しようとしている。日本では、量子力学と統計力学の関係を理解する人はほとんどいなかった時代での先駆的な考察である。
後年(1957年)ノイマンの著書の日本語訳が出版されるにあたり湯川は序文をしたためている。その中で湯川は「Neumannは本書において、量子力学の数学的な基礎を明らかにしたばかりではなく、観測の問題の精密な分析をも行い、更に進んで量子統計力学の再構成までも試みた。」「今日まで本書の日本訳が出なかったことは不思議なくらいである」と述べている。(文: 細谷 裕)
史料提供:京都大学 基礎物理学研究所 湯川記念館史料室 (s04-04-008)
OU1935-A3-s04-04-008