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論文原稿:素粒子の相互作用について IDraft of Yukawa's first paper: On the Interaction of Elementary Particles. I.
OU1934-A5 (16ページ) 日付: 1934年11月1日
これぞノーベル賞受賞に繋がる湯川の歴史的な論文の手書きの原稿である。
湯川はそれまで論文を発表していなかった。1933年、大阪帝国大学に着任、菊池正士らの俊英が原子物理、量子物理を極める中、核力の謎に取り組む。10月初旬に閃いた𝛾’ (ガンマプライム)のアイディアはここに核力を媒介する新しい粒子(中間子)として結実する。粒子間に働く力を説明するのに新粒子を導入するという発想自体が革命的であった。湯川は様々な実験データから、この新粒子の質量や力の大きさを見積もる。世界中の他の物理学者には考え及ばなかったことなのだ。
湯川は論文原稿を大阪帝国大学物理学科(Department of Physics, Osaka Imperial University)のノート用紙にしたためる。湯川愛用の用紙だ。湯川の英語の筆跡は美しくなめらかである。
原稿の最後の部分(15ページから16ページ)で、素粒子の相互作用は電子よりずっと重い、電荷を持ったボーズ粒子(量子、quanta)によってうまく記述できると結論する。また、この新粒子は宇宙線として観測できるかもしれないと指摘している。だが、考察は未だ「推測」の段階にあることも認める。湯川は、科学者として厳しく謙虚であった。(文: 細谷 裕)
史料提供:京都大学 基礎物理学研究所 湯川記念館史料室 (s02-030-013)
OU1934-A5-s02-030-013