史料集Archive

宇宙線で見つかった新粒子の理論On the Theory of the New Particle in Cosmic Ray

OU1937-C3 (4ページ) 日付: 1937年10月4日

湯川と坂田昌一、武谷三男の共著の論文でアメリカ物理学会論文誌 Physical ReviewのLetter として投稿した。10月22日にPhysical Review事務局に届いている。

1936年、宇宙線観測で電子と陽子の中間の質量を持つ新粒子が発見されたが、その正体は不明であった。後に、宇宙線で見つかったのはミュー粒子であることが判明するが、湯川達はこの宇宙線中の新粒子が、湯川が1934年に提唱した核力を担う粒子(U粒子と呼ばれている)と同じではないかと考え、その性質を見極めようとする。宇宙線観測、核力の両方の考察から粒子が電子の200倍程度の質量を持つと推定する。この時は、U粒子はプラスかマイナスの電荷を持つと想定され、そのため、陽子と中性子が入れ替わる事による核力は説明できるが、陽子同士、中性子同士の力は観測の10分の1程度にしかならないことを指摘、2ページ目で、どうも中性の新粒子も必要であるとコメントしている。現在ではパイ中間子は、電荷を持つものだけでなく、電荷を持たない中性パイ中間子も存在することがわかっている。この論文で湯川達はパイ中間子は3重項として現れることを示唆していたのである。重要な理論展開である。

さらに、陽子と中性子の異常磁気能率を、陽子(中性子)が量子効果で中性子(陽子)とU粒子になることから説明しようとしている。非常に斬新なアイディアであった。もちろんこの説明は不完全で、現在では陽子、中性子がクォーク3個からなる複合粒子であることが重要とわかっている。量子効果で「異常」な性質を説明するこの湯川達の考え方はその後の素粒子物理学で一つの手本となっている。宇宙線の物質中でのエネルギー損失も評価し、原子核の問題と宇宙線の問題は絡み合っていると結論する。この論文はPhysical Reviewに掲載されることはなかった。史料OU1937-C2の説明も参照されたい。(文: 細谷 裕)

史料提供:京都大学 基礎物理学研究所 湯川記念館史料室 (E16-011)
OU1937-C3-E16-011
BACK TO INDEX