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考察:陽電子の理論についてIdea: On the Theory of Positrons
OU1934-B9 (4ページ) 日付: 1935年1月6日
1929年、ディラック(Dirac)は電子が従う相対論的なディラック方程式を提唱した。その方程式の一つの帰結として陽電子の存在が予言され、1932年には宇宙線の実験で確かめられた。ディラックは「真空」状態では負エネルギー状態の電子が埋め尽くされているとする。これはディラックの海(Dirac sea)と呼ばれ、無限個の負電荷があることになってしまう。多くの人は、これはディラック理論が不完全であることを意味すると考えた。
湯川もこの問題に取り組んだ。湯川は負電荷と正電荷は対称的に取り扱われるべきで、電子と陽電子にそれぞれの固有場があると考え、理論を構築しようとする。そのアイディアを書き綴ったのがこのノートである。しかし、どうも上手くいかない。アイディアは暗礁に乗り上げる。4ページ目では、途方に暮れて、落書きを連ねている。なんと身近な人であったことか。このノートに書き綴られたアイディアは、やがて「Density Matrix in the Theory of the Positron」(史料OU1936-C1, OU1936-C2を参照)としてまとまっていく。現在では、電子と陽電子は一つのディラック場で記述され、適切な量子化をすれば無限の負電荷は現れないことがわかっている。(文: 細谷 裕)
史料提供:京都大学 基礎物理学研究所 湯川記念館史料室 (s04-03-015)
OU1934-B9-s04-03-015