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大阪大学大学院理学研究科 教員インタビュー

宇宙物理学者である私と湯川の接点

大阪大学大学院理学研究科
長峯 健太郎 教授(宇宙論)

 

 

Q:湯川秀樹とご自身との間に、どのような接点を感じていますか。

私は湯川秀樹と直接お会いした世代ではありませんが、若い頃に目にした写真や書籍を通して、強い影響を受けました。特に印象深いのは、湯川がアインシュタインとともに、プリンストン高等研究所の庭を散策している写真でした。他にもオッペンハイマーやウィーラーなどの著名な理論物理学者たちと、高等研の前で写っている写真がいくつか残されています。

それらの写真から伝わってきたのは、「日本の理論物理学者が、世界の知の最前線で、きわめて自然体で議論している」という姿で、私は強い憧れを抱きました。あわせて、湯川の自叙伝『旅人』を読んだことも、私にとって大きな意味を持っています。この本には、物理学の知見だけでなく、異なる文化や人々との出会い、海外で研究することへの戸惑いや喜びが、静かに語られています。「研究者である前に、一人の人間として世界を旅し、考え続ける」というその姿勢に、私は研究者という生き方の本質的な魅力を感じました。湯川は京都を愛したと言われていますが、同時に真の国際人でもあったのだと思います。

こうした影響もあり、私は大学院進学の際に、アインシュタイン以来、長い間宇宙論の分野で最先端を走り続けてきたプリンストン大学を志し、進学しました。今振り返ると、湯川が切り拓いた「国境を越えて、普遍的な物理を語る」という道に、無意識のうちに惹かれていたのだと思います。実際、進学後は高等研究所のセミナーに毎週のように通い、かつて写真で見たあの庭を、私自身も幾度となく散策しました。

 

Q:ご自身はどのように研究者を志すようになられましたか。

最初から明確な目標があったわけではありませんが、子供の頃から自然や宇宙に対する憧れは、ずっと心のどこかにあったように思います。転機となったのは、高校生のときに出会った相対性理論でした。ローレンツ収縮や時間の遅れといった、日常感覚では考えられない不思議な現象に深く魅了されました。岩波文庫の『相対性理論』(アインシュタイン(著)、内山龍雄(訳))を手に取り、アインシュタイン本人の言葉から高校レベルの物理の知識でもその論理が追えることに、深い感動を覚えました。

その後、大学で一般相対性理論を学び、今度はその理論が宇宙全体の成り立ちや進化までも記述できる力を持っていることを知り、「宇宙論の研究者になりたい」と強く思うようになりました。ずっと後になって、“内山龍雄”が大阪大学の教授だったことも知りました。

 

Q:湯川記念室という場に、どのような思いを重ねていますか。

私にとって湯川記念室は、単に過去の歴史を保存する空間ではなく、むしろ、これから研究者を目指す若い世代が何かを感じ取り、刺激を受ける「生きた場所」であると考えています。かつて私自身が、湯川とアインシュタインの散策する姿や、『旅人』に綴られた言葉から研究者としての進路に大きな動機づけをもらったように、ここには言葉や時代を超えて伝わる「知の営み」の記録が息づいています。現在、大阪大学で研究と教育に携わり、さらに湯川記念室の委員として関わらせていただいていることに、不思議な縁を感じずにはいられません。

また、大阪大学理学研究科には、コロンビア大学から移設された湯川の黒板があり、今私がこうして書いているように、誰でも自由に書き込めるようになっています。日々、学生たちも議論によく使っていて、彼らもそこから湯川のオーラを感じ取っているのだと思います。

湯川記念室運営委員会委員の先生方と筆者(左から2人目)(2025年6月撮影)

 

Q:高校生や学部生におすすめしたい、湯川秀樹の著作はありますか。

やはり、一冊挙げるならば『旅人』をおすすめしたいです。この本は、専門的な物理の解説書ではなくて、一人の人間として、いかに世界と向き合い、いかに自分の問いを持ち続けるかという生き方の記録です。タイトルの「旅人」という言葉には、「人間は、自分がどこからきて、どこへ行こうとしているのかを、完全には知らない存在である」という謙虚な自己認識が込められていると思います。宇宙を研究する私自身もまた、人類の存在を宇宙論的な視点から探究し続ける旅人の一人と言えるかもしれません。

この本を読むと、「研究者になる」ということが、特別な才能を持った人だけに許された特権ではなく、好奇心を大切にしながら、迷いながらも、自らの問いを持ち続ける生き方なのだと感じられると思います。進路に迷っている高校生や学部生の方にも、ぜひ一度手に取っていただき、湯川を身近に感じてほしいと願っています。そして、湯川記念室の資料から、湯川直筆の研究ノートや記録にも、ぜひ目を通してみてください。

 

 

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