最先端の物理を高校生に
Saturday Afternoon Physics 2006

日時: 2006年10月21日、28日、11月4日、11日、18日、25日(土)3時─6時
場所: 大阪大学基礎工学部シグマホール(豊中キャンパス)
主催: 大阪大学湯川記念室 

Updated 25 October 2006

ようこそ、「最先端の物理を高校生に」

プログラム のコーナーです




授業の構成

授業は毎回3時間で、つぎの三部構成で行います。

基幹講義 自然界の様々な世界を訪ねます 70分
コーヒーブレイク 展示、交流、Q&A 約40分
実践講義 ハイテクにおける物理、ゲーム、クイズ 約60分

6回の授業のうち1回(11月11日)は最先端研究施設の見学です。

スケジュール

10月21日 豊中キャンパス、シグマホール
入学式
基幹講義 宇宙から極微の世界までを概観する 藤田 佳孝 大阪大学理学研究科
コーヒーブレイク 光で見る原子の世界 松多健策,福田光順 大阪大学理学研究科
実践講義 原子と量子の世界の扉を開こう 木村 正廣 高知工科大学
10月28日 豊中キャンパス、シグマホール
基幹講義 量子と統計の世界への旅立ち 菊池 誠 大阪大学サイバーメディアセンター
コーヒーブレイク 超伝導の不思議な世界 田島節子,藤井研一 大阪大学理学研究科
実践講義 超伝導リニアの技術開発 白國 紀行 JR東海
11月 4日 豊中キャンパス、シグマホール
基幹講義 分子の世界への旅立ち 木下 修一 大阪大学生命機能研究科
コーヒーブレイクと
実践講義

コンピュータで見るナノの世界 (川野研究室)
音と共振の世界 (平尾研究室)
レーザと粉末で人工骨を作る (生産加工システム研究室)
人間の理解と支援のためのロボティックシステム (宮崎研究室)

大阪大学基礎工学研究科
11月11日 吹田キャンパス
吹田キャンパスの案内図   バス時刻表
施設見学
工学研究科、核物理研、レーザー研
11月18日 豊中キャンパス、シグマホール
基幹講義 原子核、素粒子の世界への旅立ち 山中 卓 大阪大学理学研究科
コーヒーブレイク 実際の血管や血液の流れを観察してみよう 大城 理,松本健志 大阪大学基礎工学研究科
実践講義 コンピュータシミュレーションで血液の流れを調べる 和田 成生 大阪大学基礎工学研究科
11月25日 豊中キャンパス、シグマホール
基幹講義 宇宙への旅立ち 佐々木 節 京都大学基礎物理学研究所
コーヒーブレイク 地球の電気を測ってみよう 河崎善一郎 大阪大学工学研究科
実践講義 世界中に雷を求めて 河崎善一郎 大阪大学工学研究科
修了式


概要(アブストラクト)

10月21日 豊中キャンパス、シグマホール
基幹講義 宇宙から極微の世界までを概観する 藤田 佳孝
コーヒーブレイク 光で見る原子の世界 松多健策,福田光順,木村正廣
実践講義 原子と量子の世界の扉を開こう 木村 正廣


宇宙から極微の世界までを概観する  (藤田 佳孝)

自然界の広がり
 140億年の広がりを持つ宇宙から銀河、太陽系、地球、生物、分子、 原子、原子核、素粒子、クオークまで自然界は階層構造を持ちながら大きく 広がっています。しかしその階層構造は、単純なピラミッド型ではありません。 驚いたことに、ギリシャ神話で自分のシッポを呑み込む「ウロボロスの蛇」の ように、各階層が互いに関連し、ループを形作っています。宇宙、銀河、星の 世界を理解するためには、原子核や素粒子の世界の理解が、またその逆も、 どちらもが重要でなのです。

基本的な力(相互作用)と保存則
 宇宙から極微の世界まで、見た目の多様さとは異なり、自然界は驚くほ ど単純で基本的な要素の組み合わせで出来ているようです。たとえば、お おもとの力(相互作用)は、重力、電気磁気の力、弱い相互作用、強い相 互作用の四つしかありません。つまり大宇宙から素粒子、クオークまで、 自然界全体が、四つの力の働きのバランスで成り立っているのです。
 またどの自然の階層においても、エネルギー保存則、運動量保存則、角 運動量保存則など「保存則」が正しく成り立つことが知られています。 これらの保存則は、自然界の対称性、単純さを表す重要な考え方で、未知 の分野の研究では、ナビゲーターの役目を果たします。日常生活でも、止 まっている自転車は倒れるのに、走り出すと倒れないという経験は、実 は角運動量保存則を見ている事になります。

Fujita1



光で見る原子の世界 (松多 健策、福田 光順、木村 正廣)

 空にかかる虹で経験するように、私たちの身のまわりの光はいろんな色の成分(スペクトル)から成ります。プリズムなどを用いた分光計を使ってスペクトルを分解してみると、太陽からの光は連続的だけれど、原子の発光や蛍光灯の光のスペクトルの中にはとびとびのスペクトルが見られます。この事は、量子力学の誕生・発展の契機になり、また、原子の中の構造を調べる手段になってきました。ここでは、回折格子を用いて、簡単な分光計を自作してみましょう。原子・量子の世界をちょっぴり覗く事が出来ます。

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原子と量子の世界の扉を開こう  (木村 正廣)

 分光器を通して見ると、太陽からの光や電球の光では連続的な色のスペクトルが見られるのに,水銀ランプやナトリウムランプのスペクトルはとびとびの波長のところしか光っていません。原子のような極めて微小な世界では、電子はとびとびのエネルギー状態しかとれなくてしかも波の性質を持つと考えると、これらのことが説明できることを、ボーアやドブロイが示しました。また、プランクやアインシュタインは、光も光量子と呼ばれるエネルギーの塊である事を明らかにしました。  このように原子のようなミクロの世界を支配する法則は量子力学と呼ばれ、我々の日常生活で体験できるようなニュートン力学(古典力学)とはかけ離れた、不思議な性質を持っています。この不思議な世界では、電子のような粒子も実は波動であり、この波が図のように原子核の周りを雲のように取り巻いています。ハイゼンベルグの不確定性原理により、ある瞬間に電子がこの電子雲のどこに居るのかは観測不可能で、空間上のおのおのの点での存在確率だけが与えられるのです。このように一見へんてこで不思議な、量子力学の支配する原子の世界の扉を開いてみましょう。

Matsuta1

原子を取り巻く電子のいろいろな軌道




10月28日 豊中キャンパス、シグマホール
基幹講義 量子と統計の世界への旅立ち 菊池 誠
コーヒーブレイク 超伝導の不思議な世界 田島節子,藤井研一
実践講義 超電導リニアの技術開発 白國 紀行


量子と統計の世界への旅立ち  (菊池 誠)

液体や固体は原子がたくさん集まったものです。では、原子の性質がわかれば、それだけで液体や固体の性質がわかるのかといえば、実はそうではありませ ん。たくさん集まることによって、新たな性質が出現するからです。結晶ができたり、物質が磁石になったりするのはその例です。固体が「硬い」のも原子が たくさん集まって初めて生じる性質です。また、極低温では超伝導や超流動といった現象が起きます。このように「原子が集団になることによって生じる現 象」のいろいろをお話ししましょう。

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超伝導の不思議な世界  (田島 節子、藤井 研一)

超伝導とは、物質の電気抵抗がゼロになる現象です。通常は-270℃くらいの極低温でしか実現しない現象ですが、最近その超伝導になる温度が100℃以上高い物質が発見されました。おかげで、超伝導現象を実際に見ることが簡単にできるようになりました。今回は、液体窒素で冷やして超伝導状態になった銅酸化物に、強い磁石を近づけて“磁石が超伝導体につかまる”力の強さを体験してもらう予定です。その後、なぜそういうことが起きるのか、という説明をします。

Tajima1   Tajima2


超電導リニアの技術開発 (白國 紀行)


超電導リニア、それは世界に誇る日本独自の先端技術です。 2005年3月に国土交通省の超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会に おいて「実用化の基盤技術が確立したと判断できる」という高い評価を受けました。 「超電導」とは、ある種の金属、合金、酸化物を一定温度以下にしたとき、 電気抵抗がゼロになる現象を言います。 一度電流を流すと永久に流れ、しかも極めて強い磁界が得られます。
「リニアモーター」とは従来の鉄道車両の回転式のモーターを直線(リニア)状に 引き伸ばしたもので、内側の回転子が車両に搭載した超電導磁石、 外側の固定子が地上に設置される推進コイルに相当します。 鉄車輪と鉄レールとの摩擦を利用して走行するのではなく、 超電導磁石と地上のコイルとの間の磁力によって非接触で走行します。 500km/hの超高速走行が可能な地上で最も早い乗り物、 超電導リニアの技術開発の現状をお話したいと思います。
 詳細は、  こちらへ



11月 4日 豊中キャンパス、シグマホール
基幹講義 分子の世界への旅立ち 木下 修一
コーヒーブレイクと
実践講義

コンピュータで見るナノの世界 (川野研究室)
音と共振の世界 (平尾研究室)
レーザと粉末で人工骨を作る (生産加工システム研究室)
人間の理解と支援のためのロボティックシステム (宮崎研究室)



分子の世界への旅立ち (木下 修一)

・・・  分子に光があたると、分子内部の原子の動きで、光はその振動数をわずかに変えて放出される。  ・・・  中には電子とエネルギーのやりとりせずに色を造るものもある。 モルフォチョウという強烈な青色を放つ蝶もその1つの例である。 この現象には、蝶の翅(はね)の表面を覆う鱗粉上にある、100ナノメートルサイズの複雑な構造が関係している。  ・・・ 

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詳しくは、 こちらへ



11月18日 豊中キャンパス、シグマホール
基幹講義 原子核、素粒子の世界への旅立ち 山中 卓
コーヒーブレイク 実際の血管や血液の流れを観察してみよう 大城 理、松本健志
実践講義 コンピュータシミュレーションで血液の流れを調べる 和田 成生


原子核、素粒子の世界への旅立ち  (山中 卓)

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我々の世界は原子で作られ、原子は電子と核子から作られ、 核子はさらにクォークから作られている。 これらの粒子は、ビッグバン以降の宇宙の進化とともに作られてきた。 しかし、素粒子や原子核の世界は、いまだに多くの謎に包まれている。 講義では、今までに明らかになってきたこと、および謎の解明に取り組む 実験などについて、わかりやすく解説する。





実際の血管や血液の流れを観察してみよう (大城 理、松本 健志)


1.X線CTによる脳血管の3次元表示(ムービー)
2.心臓に酸素と栄養を送る冠循環の流れ(ムービー)
3.近赤外光で血管を見てみよう(実演)

brain1    blood
    脳血管の3次元画像            近赤外光で観察した血管



コンピュータシミュレーションで血液の流れを調べる (和田 成生)

wada1 心臓から拍出される血液は,全身に張り巡らされた血管系内を絶えず循環し,体を構成する全細胞に酸素や栄養分を供給しています.何らかの原因で血液循環に障害が生じると,直ちに生命の危機に陥ります.血液の体積の約半分は,赤血球と呼ばれる両凹円盤形をした有形成分の細胞で占められています.このため,心臓や大動脈のような太い血管では,血液は流体のように振舞いますが,毛細血管のような細い血管では,赤血球が変形しながら血液は流動しています.実は,血流によって引き起こされる様々な力学的因子が,心筋梗塞や脳卒中の原因となる動脈硬化や動脈瘤の発症と進行,血栓の形成や溶血の発生などに深く関与していることが知られています.こうした血管病の発症や進行のメカニズムを解明するためにも,体の中で血液がどのように流れているのかを調べることは重要です.本講義では,心臓や大動脈内のマクロな血液の流れから,毛細血管のミクロな赤血球の変形運動までの血液のマルチスケールな流動現象を,コンピュータシミュレーションを通じて調べる方法について解説します.


図 血流のマルチスケールシミュレーション.赤血球の変形・運動から心臓内の流れまで.




11月25日 豊中キャンパス、シグマホール
基幹講義 宇宙への旅立ち 佐々木 節
コーヒーブレイク 地球の電気を測ってみよう 河崎善一郎
実践講義 世界中に雷を求めて 河崎善一郎


宇宙への旅立ち  (佐々木 節)

この宇宙がどのようにして誕生し,どのようにして現在の姿になったのか,を研究する学問を宇宙論と言います。宇宙論は,人類の歴史の中で,はるか昔から存在しており,文明の誕生とともに生まれた最も古い学問のひとつでしょう。しかし,ごく最近まで,宇宙論はどちらかというと哲学的研究対象で,自然科学ではありませんでした。宇宙論が実証的自然科学の対象となってからまだ100年も経っていません。しかし,20世紀の物理学の発展,特に20世紀後半の観測技術の発展と新しい理論の発見のおかげで,現代の宇宙論は飛躍的な発展を遂げています。本講演では、我々の宇宙観の変遷を簡単に振り返りながら、最新の理論と観測に基づいて明らかになってきた「宇宙の誕生と進化」の秘密に迫ります。

Sasaki1
ハッブル望遠鏡で見た宇宙の深部。いろいろな形をした多くの星雲が見られる。



地球の電気を測ってみよう  (河崎善一郎)

我々の住む地球は電気を持っています。正確にいうと帯電しているのです。 ちょっと地球を取り巻く空間について考えて見ましょう。地上おおよそ100kmの付近から数百kmまでは電離層と呼ばれ,金属と良く似た性質を持つ状態となっています。当然地球は電気的に見れば導体の球ですから,球殻・電離層と地球を併せて非常に大きな金属の同心球を形成し,電気回路的にはコンデンサ(キャパシタ)と見なすことができます。実はこの地球コンデンサが帯電しているのです。 そこでCoffee Breakの時間を利用して帯電の様子を簡単な装置で実感してもらうことにします。お楽しみに!



世界の雷を求めてー地上から宇宙からー  (河崎善一郎)

地球創生の頃から存在したと考えられている雷放電は,今日でも不思議な現象です。その雷放電のあるところなら世界中,何処へでも出かけて行って観測をしています。出かけて行っての観測ですから,現場では観測装置を自分達で設営します。当然宿泊場所の確保も観測を成功させる一つの大きな要因です。これまで観測を実施したのは,ノルウェー,中国,カナダ,インドネシア,アメリカ,フランス,オーストラリア,ブラジル,ベネズエラで,国内を併せれば十カ国です。つまり雷を追って,世界中を飛び回っているのです。そして地上では飽きたらず十年ほど前からは,人工衛星を利用した観測も行っています。そんな研究活動の苦労話を紹介しながら,いくつかの疑問点を考えてみることにします。

1.雷雲に電気の貯まるメカニズム
2.雷放電開始のメカニズム
3.雷放電進展のメカニズム
4.落雷と雲放電のメカニズム
全部判ってくれとはいいません。一つだけでも判って貰えたらいいなぁと思って講義をします。







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