分子世界への旅立ち
 原子が集まり分子となり、巨大な分子が集まりさらに大きな構造が造られていく。私たち生命体は、このような階層を何段も乗り越え、そのたびごとに新しい性質を獲得してきた成果ともいえる。生命体は、このような構造を自発的に造り上げる「すべ」を、長い進化の歴史の中で獲得してきたのである。
 ここで紹介するモルフォチョウという強烈な青色を放つ蝶も独特の構造をもつ例の1つである。この蝶の翅(はね)の表面を覆う鱗粉上には、 100ナノメートルサイズの、一見すると規則正しい、しかし、よく見ると大変複雑な構造が造られている。この複雑な構造と光が巧みに相互作用しあって、あの青い光を造り上げているのである。このようにミクロな構造と光の織りなす色は「構造色」といって、昆虫や鳥、魚など自然界に広く存在している。身近にいるハトの首に注目してみよう。紫色と緑色に光っていることはよく知られているが、角度を変えてみても不思議と紫と緑の二色しか現れない。この二色性の仕組みは単純な薄膜干渉によっていることが最近分かってきた。しかし、単純といっても、その色を見るものの視覚を巧みに利用して、この二色性を造り出しているのである。