通常の元素または化合物と区別できるような物質(トレーサ)の体内挙動を追跡することで生体を傷つけることなくさまざまな生理的機能を測定することができます。極微量の放射性同位体、中でも電子の反物質であるポジトロンを放出する核種を利用するポジトロン・エミッション・トモグラフィ(PET)と呼ばれる技術は検出感度が高いので、各臓器の細胞内の種々の機能を画像として観察することができます。生体の主要構成元素である炭素、窒素、酸素を標識したり、また放射化したフッ素を化合物に導入することで、まさに分子レベルの機能が画像できます。すでに臨床医学はもとより、基礎医学、生理学、生化学などの多くの分野に貢献してきました。私たちは、生物に備わっている自己調節機能に興味を持ち、どのような分子メカニズムが関与しているのかについてPETを使って研究しています。PETの計測とトレーサ解析技術のエッセンスを概説し、どんなことがわかってきたのかについて紹介してみたいと思います。
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脳内主幹動脈閉塞症を有する患者様の安静時および血管拡張薬投与後(負荷時)の脳血流量画像の例。上の症例では安静時に異常を認めず、フィードバック機構により代償されていることがわかる。一方下症例ではすでに自動調節機能が限界を超えており安静時血流量の低下を認める。血管反応性も消失している。 |
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種々の放射化した化合物の脳内への集積画像。化合物ごとに異なる分布を示し、これらの解析により脳の機能解明に貢献している。 |
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